寄稿「水素ドローンの産業化に向けて」代表理事 貝應大介 

寄稿「水素ドローンの産業化に向けて」代表理事 貝應大介 

「水素ドローンの産業化に向けて」

Ⅰ 求められる長距離・長時間飛行可能なドローンの社会実装

「未来投資戦略」及び「空の産業革命に向けたロードマップ」において、政府は「2020年代には都市でも安全なドローンによる荷物配送を本格化させる」という目標を掲げている。その実現に向け、国土交通省は、経済産業省とともに設立した「無人航空機の目視外及び第三者上空等での飛行に関する検討会」において、無人航空機の目視外及び第三者上空での飛行について、機体の性能、飛行させる者及び安全を確保するための体制に求められる要件等の検討を行い、2022年度に有人地帯での目視外飛行(レベル4)を実現させるために必要な航空法の改正案が国会で可決した。
このレベル4の解禁により、最も期待されているのが搬送物流分野である。これまでは、第三者上空の飛行が禁止されていたことから、離島や山間部への物流配送がほとんどだったが、レベル4の実現により都市部における物流配送などにも弾みが付くと考えられる。
ドローン物流は他の分野に先駆けて、2015年頃から技術検証が行われるようになっているが、物流以外の分野(例:インフラ点検・太陽光パネルや鉄塔、橋梁点検・測量・農業等)程に商用化は進んでいない。これは他分野では比較的限られた空域(目視内飛行)で作業を行う事ができるのに対し、物流の場合は、広域なエリアの上空を、長距離、飛行する必要があることから、長時間飛行を可能にする技術並びに関連法等が成熟・整備されていない事が主要因である。
この内、航空法関連では、国が「過疎地域等における小型無人機を使用した配送実用化推進事業」として2018年から検証実験を実施。航空管制やモバイルオーダーシステム、LTE携帯電話回線利用、航空機との衝突回避技術などが実現されつつある。他方でドローン本体の技術進化もめざましく、最先端センサーやカメラを搭載し、1年で世代が変わるほどの成長をしている。
こうした中で最大の課題となるのは、長時間飛行させるための電源である。
従来からドローン用途には、リチウムイオン系ポリマー電池が採用されてきている。ただし残念ながら、リチウムバッテリー搭載ドローンは小型のもので飛行時間は最長40分程度。大型のドローンの場合には10分から15分といった飛行時間のものもある。無論すべてのドローンが長時間飛行しなければならないわけではない。目視内での空撮などは30分も飛行できれば十分に撮影が可能であろう。しかしながら、物流やインフラ点検などのユースケースにおいては大型ドローンを長距離、長距離飛行させる必要がある。数年前の飛行時間20分と比較すれば、リチウムの成分の改良によって、飛行時間が伸びてはいるものの、社会実装に十分とは言い難い。
高性能なリチウムバッテリーを搭載しても、一定の容量以上のバッテリーを搭載するとドローン自体が重量オーバーになり飛行自体が不可能になる。リチウムバッテリーの様に、出力性能と重量との間に一定の相関性がある限り、飛行性能向上分の多くを重量増で減殺してしまう事になる。飛行性能を向上する上で、ガソリンエンジンとのハイブリッドドローンというのも選択肢の1つであるが、エンジン本体及びガソリン燃料の重量と出力のバランスから、回転翼型のドローンに適しているとは言い難く、又、環境上の問題も大きい。
水素をエネルギーにしたドローンが期待されているのはこうした背景からである。水素は、化石燃料の将来的な枯渇や地球環境問題の深刻化を背景に、最も注目されている二次エネルギーである。水素源となる水は地球上に無尽蔵に存在し、酸素と反応することでエネルギーと水を生成する。すなわち「水から生まれて水に還るCO2フリーの究極の再生可能エネルギー」である。
この水素エネルギーとドローンを組み合わせたのが、水素燃料電池搭載ドローン(以下水素ドローン)である。
水素ドローンの実用化は、ドローン物流のいち早い社会実装を可能にする他、災害時のドローン利活用にも弾みが付くと考えられる。元々ドローンは小回りが効き、車両や人が入りづらい場所や危険な場所へ行くことが可能である。又、ヘリコプターなどよりも、低い高度で飛行することが可能な為、さまざまな場所で安定して撮影ができ、被災状況の調査や行方不明者の捜索に有用である。更に被災地への物資輸送にも有効であろう。災害時には道路が寸断されるなど、陸上輸送が困難になることもあるであろうし、離着陸に一定の面積を要するヘリコプターでは立ち入りにくい災害現場もある。こうした点は災害時にドローンを利活用する大きなメリットと言えるが、やはり飛行時間の短さは大きなネックになる。水素ドローンが実用化できれば、災害対応ドローンが加速すると考えられる。
以上の通り水素ドローンは、ドローン物流やドローンによる災害対応をより効果的にする有望な技術の1つである。水素の供給インフラ整備等、固有の課題があるものの、安全に対するガイドラインが制定され、経済産業大臣の特別認可の元で、実際の飛行実証も開始される等、その安全性確認や技術開発も進捗している。
以下、その安全性の担保状況や今後求められる技術開発の方向性について述べる。

Ⅱ 水素ドローンの安全性の担保状況について

Ⅱ-1 高圧ガスの安全のためのガイドライン概要

水素ドローンに搭載する容器は、一般複合容器を採用しており、1MPa以上のガス充填を実施することから、高圧ガス保安法(昭和 26 年法律第 204 号)の規制対象となるため、水素ドローンの運行にあたっては、高圧ガス保安法の規制への対応が必要不可欠である。高圧ガス保安法の省令において、高圧ガスの移動・消費時における高圧ガス容器の「粗暴な取扱い」を禁止している。燃料電池用の水素を貯蔵する高圧ガス容器をドローンに搭載することは、水素高圧ガス容器が地上に万が一落下した場合のリスク等に鑑みて「粗暴な取扱い」に該当する。そのため、一定高度以上(例えば3m以上)で水素燃料電池ドローンを飛行させることは従来困難であった。この課題を解決するには、高圧ガス容器等が、飛行時や万一地上へ落下した時に受ける衝撃等に対して十分な強度を有しているかなど、高圧ガスを取り扱うことによる特定のリスクを評価し、必要な安全措置を講じることが必要になる。そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所及び高圧ガス保安協会総合研究所が実証試験を行い、容器等の耐久性及び衝撃緩和措置の適当性について評価を実施。有識者委員会(水素燃料電池ドローンに係る基準作成の検討に関する調査研究会)で、当該試験結果も踏まえ、水素ドローンを高圧ガス保安の観点で安全に活用するための要件を整理。高圧ガス保安法の「粗暴な取扱い」に係る事項については、経済産業大臣特別認可(以下「大臣特認」という。)の取得を要件とし、飛行可能とした。(但し、「大臣特認」はあくまでも高圧ガス法の認可であり、ドローンとしての飛行許可とは別であるため、あらためて国交省航空局に水素ドローンとしての飛行許可が必要になる。)
以上の経緯を経た「水素燃料電池ドローンにおける高圧ガスの安全のためのガイドライン(案)」が、2021年4月から公開されている。高圧ガス保安法令に基づき、一定高度以上で飛行するドローンに水素貯蔵容器を搭載する場合に求められる事業者が担保すべき安全面の条件や措置を、ガイドラインにまとめたものである。
このガイドラインの中では、落下衝撃対応の実証試験として、一般財団法人日本自動車研究所における衝突試験設備 HYGE を用った試験を行っている。150m 相当の高度からの落下を想定しているため、ド ローンに比べ十分に質量の大きい台車を、ドローンの落下衝撃時に相当する速度で衝突させて落下衝撃を模擬。ドローンの設計高度及び落下速度を想定した上で、落下速度の不確実性を考慮し、複数の姿勢の影響、複数の落下形態を実施し、容器の圧力サイクル試験及び破裂試験、バルブの耐 圧試験及び気密試験等を行い、容器及びバルブからの漏えいの有無や、耐久性・健全性を確認した。現状、高圧ガス容器単体の衝撃によるリスクに係る知見は一定程度あるものの、150m から落下した容器、保護装置を装着した容器、ドローンに装置した容器への衝撃によるリスクに係る知見は国内外を通じて未だ存在しない中、非常に重要なガイドラインを日本で制定したと言える。

Ⅱ-2  水素ドローンに搭載する水素貯蔵用高圧ガス容器の要件

水素ドローンに搭載する容器及び附属品には、落下及び落下による衝撃に係るリスクへの対応が最も重要である。そのため、容器等の基本特性を示す資料には、容器等の仕様、型式番号、製造業者、種類(容器の場合には、一般複合容器、一般継目なし容器など。附属品の場合には、電磁式、手動式など)、適用技術基準、充塡ガスの種類、外径、全長、内容積(公称値)、重量(公称値)及び最高充塡圧力、最小破裂圧力、耐圧試験圧力、自緊処理圧力 等、容器等の設計図、容器等の使用環境及び使用環境に関する条件、容器等の材料及び材料の組成、強度等を示すミルシート等の資料、容器等の構造、肉厚、強度設計を示す構造計算書等などが必要になる。又、どのようなユーザーが水素ドローンを使用するのか(用途、場所、高圧 ガスの取り扱いに係る経験・能力等)を説明する資料、当該ユーザーに対する必要な訓練・教育の具体的な内容及び方法に係る資料、ドローン又は容器等が落下した場合の対応方法に係る資料、及びその他ユーザーによる運用における安全性担保のために必要な事項に係る資料等を、用意しなければならない。
ドローン又は容器等が落下した場合、容器は原則として廃棄することとするが、 管理された区域内での実証試験等、ごく限定的な条件下で使用される場合であっ て、安全性が個別審査により認められる場合は、この限りでない。ただし、この場合にあっては、想定する「落下」及び「損傷」の定義・範囲並びに落下後の対応方法等について、大臣特認申請時に明らかにしなければならない。
また、貯蔵の安全性(高圧ガス保安法第15条第1項、一般則第18条第2号) として、水素を充塡容器等で貯蔵する場合は、通風の良い場所でする事とし、充塡容器等は、常に温度 40℃以下に保つことが必要で、充塡容器等(内容積が5リットル以下のものを除く。)には、転落、転倒等による衝撃及びバルブの損傷を防止する措置を講じ、かつ、粗暴な取扱いをしないこととしている。
ドローンユーザーが保管として取り扱う場合は、容器置場として住所、概要(例えば、「〇〇実証実験場における△△建屋内」、「株式会社〇〇に おける建屋横の保管場所」のように記載)及び保管場所の見取り図(容器を置く場所、通気の状況が分かる資料、火気・引火性 のものの位置が分かるもの等を含む。)が必要になる。保管場所の温度環境(例えば、「夏季の年平均最高気温が〇〇度程度であり、直射日光が入らず通風性がよいことから温度環境が良好である」のように具体的 に記載)及び充塡容器の種類、圧力、容量、最大本数を明記、 容器の置き方(例えば、「ドローンから容器を取り外す」、「水平に置く」、「マット状のものの上に置く」等)安全に配慮した保管方法についてもすべて記載しなければならない。
さらに消費の安全性として、ドローンに装着して利用する場合には、充塡容器等のバルブは、静かに開閉することや充塡容器等は、転落、転倒等による衝撃又はバルブの損傷をうけないよう粗暴な取り 扱いをしないことし、充塡容器等には、湿気、水滴等による腐食を防止する措置を講じなければばらない。そして、落下等により高圧ガスを充塡した容器等が危険な状態となったときの対応として、高圧ガスの製造のための施設、貯蔵所、販売のための施設又は特定高圧ガスの消費のための施設又は高圧ガスを充塡した容器の所有者又は占有者(水素ドローンでの利用者)は、直ちに、経済産業省令で定める災害の発生の防止のための応急の措置を講じなければならない(高圧ガス保安法第36条第1項)とされていて、事態を発見した者は、直ちに、その旨を都道府県知事又は警察官、消防もしくは消防団員若しくは海上保安官に届け出なければならない(高圧ガス 保安法第36条第2項)また充塡容器等が危険な状態になったときは、直ちに、応急の措置を行うとともに、充塡容器等を安全な場所に移し、この作業に特に必要な作業員のほかは退避させること (一般則第84条第2号)。同号の措置を講ずることができないときは、従業者又は必要に応じ付近の住民に退避するよう警告することが必要で充塡容器等が外傷又は火災を受けたときは、充塡されている高圧ガスを一般則第62条第2号から第5号までに規定する方法により放出し、又はその充塡容器等とともにその損害を他に及ぼすおそれのない水中に沈め、若しくは地中に埋めること(同条第4号)また、高圧ガスを貯蔵、消費する者又は容器を取り扱う者は、高圧ガスについて災害(事故) 等が発生したとき、その所有し、又は占有する高圧ガス又は容器を喪失し、又は盗まれたときは、遅滞なく、都道府県知事又は警察官に届け出なければならない(高圧ガス保安法第63条)。都道府県知事又は指定都市の長に事故を届け出ようとする者は、様式第58の事故届書を、事故の発生した場所を管轄する都道府県知事(当該場所が指定都市の区域内 にある場合であって、当該発生した事故に係る事務が高圧ガス保安法施行令第22 条に規定する事務に該当しない場合にあっては、当該場所を管轄する指定都市の長)に提出しなければならない(一般則第98条)。高圧ガスによる災害が発生したときは、やむを得ない場合及び上記措置(法 第36条第1項)を講ずる場合を除き、都道府県知事又は警察官の指示なく、その現状を変更してはならない(高圧ガス保安法第64条)但し、落下した場合に、災害(事故)に該当するかどうかなどについては、関連する機関(高圧ガス保安法に係る都道府県窓口等)に相談しておくことが望ましい。

Ⅱ―3 経済産業大臣特別認可に係る事項

上述の通り、水素ドローンを飛行させるには、高圧ガスの移動・消費における「粗暴な取扱い」に係る大臣特認の申請・取得が必要である。
この申請に必要な事項・情報は、申請者の立場(水素ドローンの製造者・販売者等)の別に拠らず大きく責任主体、使用用途の2つである。
責任主体に係る情報としては、①高圧ガス容器の所有者又は管理者(ガス事業者を含む。)に係る資料、ドローンの管理・運用者に係る情報(国土交通省の許認可・届出等状況を含む)として、②ドローンの操縦者に係る資料(ドローンの操縦士の資格、認定等を含む。)や③非常時の連絡体制に係る資料。
使用用途に係る情報として、①使用用途を記載した資料(例えば、「水素燃料電池の実証実験」、「農薬散布」の ように記載)②飛行計画(予定の飛行日時又は期間、飛行経路、飛行高度、機体及び機体諸元の 飛行内容に関するデータを含む)及び ③使用場所を記載した資料(例えば、「〇〇にある実証フィールド」「〇〇県△△郡 の農地」のように記載)及び周辺の民家や公共施設の有無、公道との距離を示す資料、④使用条件を記載した資料(具体的には、飛行可能/中止の判断条件等を記載。例 えば、天候、GPS 等電波環境等)⑤ドローンの管理・運用体制に係る資料及び⑥ドローンの点検・整備マニュアルとしてドローン飛行時の運用マニュアル(使用場所、使用用途に対応)及び⑦ドローン操縦技量維持のためのマニュアル等について説明及び遵守の責務を果たすことが必要である。

Ⅲ 水素ドローンの技術開発の方向性

Ⅲ-1 水素燃料電池ドローンの技術の概要・特徴

水素ドローンの基本構成は、①水素燃料電池本体、②水素高圧容器、③ドローン本体フレーム、④モーター、⑤プロペラ、⑥フライトコントローラー、⑦起動用バッテリー、⑧保護装置などからなる。
先ず①水素燃料電池としては、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)が現在最も適しているとされる。PEFCのセルは、高分子電解質膜を燃料極および空気極(触媒層)で挟み、触媒層の外側には集電材として多孔質のガス拡散層を付している。そしてその外側にはセパレータが配置。ガス拡散層は触媒層への水素や酸素の供給、空気極側で生成される水をセパレータへ排出、また集電をする。セパレータには微細なミゾがあり、水素や酸素が通り、電極に供給される。PEFCが適している理由としては、小型で高出力が可能である事に加え、常温で起動するため、起動時間が短い、作動温度が低いので安い材料でも利用できるため、コストダウンが可能。電解質が薄い膜なので小型軽量化が可能なこと等が挙げられる。現在、飛行可能なレベルでの水素ドローン用燃料電池は国際的に複数程度あるが、皆小型PEFCが採用されている。代表的なA社製品の場合、4.4kgの重量に対して2400wの出力と世界でもトップクラスである。
次の②水素高圧ガス容器は、大臣特認に大きくかかわる要素である。上述の安全性に加え、「軽量性」、「高耐食性」、「高圧ガス充填可能性」や、「容量のバリエーションの豊富さ」等が求められる。日本では現在、複数社の製品が搭載可能である。その内、B社の製品は、炭素繊維、ガラス繊維から成る、FRP製の圧力容器である。元々、消防で酸素供給用として火災現場で背負って使用されている。アルミ合金でできた継目なしの円筒(ライナー)を内筒とし、その外側をエポキシ樹脂に含浸したカーボン繊維などの高強度繊維で多層に巻きつけた構造で、万一の場合にも、破裂が起こらないようにライナーからのガス漏洩が先行し内圧を安全に低下させる構造になっている。こうした実績と安全性は水素ドローン搭載に最も適していると考えられる。
続く③ドローン本体フレームは、水素燃料電池本体と水素高圧ガス容器の大きな主要構成部品があるため、既製品ドローン(バッテリー駆動式)を改造して搭載しても最適な重量バランスを得ることは難しい。専用設計による製作が必要になる。
次に④のモーターと⑤のプロペラについては、一般的に設計から製作することはコスト的に難しいため、既製品の組み合わせを利用する。燃料電池の原理上、高回転型のモーターには向かないため低速で高トルク型モーターで大きなプロペラを回転させる設計コンセプトとなる。
次に⑥フライトコントローラー。フライトコントローラーとはドローン内部の各種センサーから演算を行い、機体の姿勢制御を行う基盤のことで、フライトコントローラーの主要な構成としては,主にマイコンとIMU (Inertial Measurement Unit)が搭載されているのが特徴である。マイコンは、マイクロコントローラーの略称で、小型のコンピューターを意味しており、パソコンと同じように、CPUやメモリ、入出力用のポートなどで構成されている。また、IMUは、ドローンが外部の情報を取得するために必要なセンサー類を指し、ジャイロセンサーや、加速度センサー、気圧センサーなどで構成されている。水素燃料電池専用とまではいかないが、水素燃料電池からの一部情報を飛行にフィードバックさせることが理想である。
また⑦起動用として一般的なリチウムイオン系のバッテリーを必要とする。これは水素燃料電池の出力不足を補うための電源としても利用可能である。
他にも、経済産業大臣特別認可を取得するために上空150m(一般的なドローンの最高高度)から落下した場合でもガス漏れが無いような⑧保護装置が必要とされる。具体的には、複合ゴム素材やアルミ材などを利用して衝撃から容器を保護しなければならない。

Ⅲ―2 水素ドローンの技術的課題

水素ドローンの技術的課題は多岐にわたり検討されているが、ここでは大きな課題として、①高圧ガス容器の次世代型の開発及び許認可、②高圧水素充填の許認可、③飛行安定性能の向上を取り上げる。
先ず①についてであるが、現在、水素ドローンに搭載されている高圧ガス容器はtype3と呼ばれる、アルミ合金でできた継目なしの円筒に外側をカーボン繊維などの高強度繊維で多層に巻きつけた構造である。一般的な鉄製容器からすれば十分に軽量であるが、軽量化が重要なドローンとしては更なる軽量化、具体的にはtype4の採用・諸認可が望ましい。type4とは、プラスチックライナーに炭素繊維を巻きつけたフルラップ容器であり、劇的な軽量化が可能になる。すでに海外では一般的に実用化されている上、日本でもトヨタ自動車の水素燃料電池自動車「ミライ」で実用化されている。このtype4を空中利用可能な製品とすることでドローン飛行時間の延伸が望める上、高圧ガス容器の運搬、装着の負担も軽減される事になる。
もう一つの課題②高圧水素の充填については、日本の産業用水素ガスの充填圧力は一般的に19.6MPsのため、容器自体が29.4MPsに対応できても、充填できる設備がほとんどない状態である。水素の充填圧力が19.6MPsから29.4MPsになることだけで、約1.5倍の飛行時間になりえるため、長距離、長時間飛行を可能にする手段としては、非常に有効である。即ち、バッテリー式ドローンで1.5倍の飛行時間を実現させるためには相当の技術課題をクリアしなければ到達できないが、水素燃料電池の場合はハードウェアを一切変更する必要なく、充填圧力を許認可されている最大圧力に変えるだけで実現可能なのである。近年、水素のマルチステーションとして、各種の水素容器に充填できるステーションを建設予定ではあるが、小型のモビリティまたはドローン向けの小型容器への充填は対象となっていない。この高圧充填の許認可と充填設備の設置が今後非常に重要になる。
更に別の課題として安定飛行性能の向上も挙げておく。原理的な問題ではあるが、水素燃料電池は急激な電力出力に追随するのはあまり得意ではない。一般に回転翼ドローンはプロペラを回転させて揚力を生む。そして4~8枚の羽の回転方向が互い違いになっていて、たとえば右に移動するならば、機体右側の2翼の回転数を下げることで旋回する。要するに回転数を細かく調整することが重要である。強風等の外部環境変化に対応しながら上昇・下降・旋回、安定した姿勢を取るには非常に細かな制御が必要であり、時に急な電力出力を必要とする。ドローンの安定性はCレートと呼ばれる瞬間出力で決まる場合もある。水素ドローンの飛行安定化に向け、瞬間出力を補うためにキャパシタ電源を利用することが有力な選択肢となる。キャパシタを採用する事で、目標高度までの急上昇や加速時の電力をアシストすると共に、燃料電池の劣化の抑制が可能になる。また、キャパシタは耐熱性を向上しているため、高負荷で電力を供給する際にも劣化しにくい。ドローンの電源が失陥した場合は不時着用のバックアップ電源としても動作できる。キャパシタの搭載は電力供給にとっても有効なのである。日本ではドローン用リチウムキャパシタをC社が開発中である。
又、飛行安定性能の向上に、フライトコントローラーの性能向上も非常に重要である。水素燃料電池は、ドローンの飛行環境周辺の空気と高圧ガス容器内の水素を化学分解して電気と水に分解するため、ドローンの飛行ルート上の空気の状態が重要である。具体的には温度と湿度が大きく作用するため、飛行ルート上で温度、湿度が大きく変化すると発電能力が変動する。そのため飛行距離、時間が変動する。このことをいち早くフライトコントローラーが受取り、飛行距離、時間の再計算をして的確なルートを再設定、もしくは操縦者が認識することが必要になる。また、目視外などの長距離を自動飛行させる場合などは気象状況を事前に考慮して飛行ルートを設定しなければ最適で安全な長距離自動飛行が実現できない。

Ⅲ―3 技術的課題解決に向けた提言
Ⅲ―2で記した通り、水素ドローンの固有の技術課題の解決の為には、関係機関等の連携や協力が必要になる。
先ずは、type4の採用並びに29.4MPsの高圧充填の許認可である。これは経産大臣特認としてではなく、将来的には通常のリチウムバッテリードローンと同程度の許認可体制になるように働きかけたい。これにより飛行能力を格段に向上する事が可能になる。
続いて、水素ドローン用高圧水素ガス充填設備の設置である。出来れば、福島県浜通りのFH2Rやロボテスといった優れた研究機関・施設と連携してあるのが望ましいと考える。
最後に、水素ドローン開発に関する補助金等の充実である。上述の通り飛行安定性能等様々な点で、社会実装迄に必要となる開発要素は山積している。こうした開発課題をひとつずつ着実にクリアしていく事が求められる。但し、こうした課題を複数の事業者が類似の試験等を異なる補助金で実施するのは非効率でもある。競争領域と非競争領域とに分けて、非競争領域については業界団体等で開発進捗等を情報共有する仕組みが望ましいと考える。

最後に

水素ドローンは、水素という環境性能の高い優れたエネルギー源を活用して、空の産業革命を実現するキラーテクノロジーであるが、まだまだその社会実装に向けて解決すべき課題は多い。こうした課題をドローン会社等が単独で解決していくのは難しい。関係する企業や研究機関、行政等が連携していく事が求められる。
2022年2月、一般社団法人水素ドローン産業化推進協議会を設立した。これは、関係企業・関係機関を会員として集める事で、会員間の情報交換を促進。研究開発ロードマップ等を共有しながら、サプライチェーン上、異なる場所に位置する各企業・機関間での効果的な連携・共同開発を促進させる事を企図するものである。又、それと同時に、水素ドローンに対する社会的受容性を高める活動を会員皆で行う事で、より円滑かつスピーディな社会実装・産業化を図る為のものである。
併せて、この協議会の本拠を福島県浜通り、原発被災地に置いた。これは、被災により一時期住む事すらままならなかった地域に新たな産業集積を進める福島イノベーションコースト構想に呼応して、水素ドローンをテーマに関連産業の集積を起こしたいという期待からである。

まだまだ道のりは長い。関係者間で連携して、一歩一歩前進していく事が肝要である。

参考文献「貝應大介,水素の製造とその輸送、貯蔵、利用技術,技術情報協会,(2022)」
https://www.gijutu.co.jp/doc/b_2172.htm